神々の黄昏の時代
エイジアの民に伝わる《ジン》
それを探す首都の民

《ジン》とは?サイタンとは?

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エイジア
 水面が光っている。
 エイジアはもうどのくらいそこにそうしているのか忘れた。
 樹々生い茂る河のほとりで素足をそこに垂らし、黒い瞳を落としている。
 苔のようなにぶい深緑色のからだをして、その流れはあちらから来てこちらへと向かう。
 果てなく。尽きることなく。
 黒い鳥が渡った。
 ようやく顔を上げた。
(帰ろう。)
 森を抜けて原を越え、また森を抜けて砂丘に出た。
 その縁を辿ってゆくと集落の煙りが見えて来る。
 砂丘の向こうは海だ。
 集落は砂丘の縁に、風を防ぐ樹々に囲まれてこじんまりと豊かにあった。
 こどもたちがエイジアの顔を見上げて笑いながらすれ違う。
 エイジアは板に囲まれ大きな葉で葺かれた小さな家に入った。
「お帰り。そろそろ食べるかい?」
 エイジアの母ほどの浅黒い女性がふくよかな笑顔を見せた。
 この人はどこに行っていたのか、とか、どこに行くのか、とか一切聞かない。まるで生まれた時からともにいるような当たり前の顔をしてエイジアを迎える。
 この笑顔を見ると肩の力が抜ける。
 そのせいでもうずいぶんここにいる。
 エイジアと名をつけたのもこの人だ。
 なんでも昔、北の方にはエイジアという民がいたそうで、伝え聞いたそのエイジア人のようだとこのナダイ・アにつけられた。そしてもうそのエイジアの民の住んだ陸は海に沈み、エイジアの民は世界にちりぢりに散ったのだという。
 エイジアにはそんな昔のことはどうでもよかった。
 自分の過去すら覚えていないのだから。
「おまえの息子はエアの子だ。」
 通りすがりにツーリ・ウが笑いかける。子のないツーリ・ウは、エイジアに自分の漁の術を教えたくて顔を見るたびに水神エアの子だと言う。
 そのたびにナダイは少々うれしそうに否定する。
「おやめ。エイジアはエアの子でもあたしの子でもないんだから。」
「おまえも見たろう。エアの腹から産み落とされたこいつを。エアからの授かりものだ。おまえの息子でないならおれの息子にしてもいいぞ。」
 ツーリはにやりと笑うと行ってしまった。
「ツーリはあんたが好きなんだよ。息子にしたいと思ってる。」
 エイジアはうなずいて黙った。
 ポツッとつぶやいた。
「漁師になった方がいいんだろうか?」
 ナダイは笑うのを止め、エイジアの目を見て言った。
「あんたには時が来る。だからその潮を待つんだよ。」
 謎掛けのような言葉をずっと聞かされてきた。
 ナダイにはどこか直感のようなものがあって、それを語る時のナダイには揺るぎがなかった。
「もう、そう、遠くないさ。」
 そうつぶやいてふっと横を向いた。
 エイジアは気がついていた。
 ナダイは普段見せない寂し気な表情を初めて隠したのだった。

 エイジアがナダイに拾われたのはそう遠い話ではない。
 砂丘の浜に流れ着いたエイジアを、ナダイはあきらめなかった。
 3日3晩寝ずに世話をした。
 4日目の朝、エイジアが目覚めた時、ナダイは言った。
「あんたはここに来ることになってたんだよ。」
 意味はわからなかった。
 からだもつらかった。
 けれども、エイジアにはそれはどんな言葉よりも滋養になった。
 無条件に迎えられた温もりを感じた。

 意識がはっきりしてきて、自分の記憶がないことに気づいた時も、ナダイのその無闇な言葉がどれだけ自分を支えただろう。
 それにこの村はナダイだけではなく、誰もが温かかった。
 こどもたちはみなすぐにエイジアと打ち解けて、エイジアの笑顔を紐解くのに貢献した。
 ここからどこかへ行くということは考えられなかった。
 どこかへ行く理由もない。
 過去がないなら未来も縛られることはない。
 だが、ナダイだけは違った。
「あんたはその時が来るまでここにいるんだ。だが、その時は来るさ。」
 ナダイの予言が当たるであろうことを、エイジア自身もどこかに感じていた。
 河は流れ続けるものなのだ。
 同じようでいてひとときも同じ河ではない。
 そして“その時”はやはり遠からずやって来た。
 思い掛けない方から矢を射られたように。

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訪問者
 その晩は時化て、海鳴りがひどかった。
 その『船』が漂着したことに誰も気づく者はいなかった。
 深い闇の中で、ナダイの家の鳥だけが鳴いた。
 ナダイは海鳴りのせいで眠りが浅かったのですぐに目を覚ました。何か、いつもと違う気配を感じてそっと起き上がった。
 どこか高ぶるものを押さえながら、ナダイは海岸へと向かった。
 砂丘を越えた。
 そこには白い砂の上に今まで見たこともないような造りの、船のような巨体が横たわっており、ナダイの大きく見開かれた目に飛び込んで来た。
 そっと村に戻り知らせようと振り向いたナダイの目の前に、見たことのない人物が静かに立ちふさがった。
 その人物はそっとナダイをなだめるような素振りを見せ、告げた。
「怪我人がいる。水をもらえないか?」
 ナダイはうなずくと、待てという仕草をして小走りに村へと駆け戻った。
 ナダイが外からもどる音を聞いてエイジアは半身を起こした。
「どうしたんだ?こんな夜更けに。」
「『訪問者』だ。おまえはすぐに老の元へ知らせろ。」
「誰だ?」
「見たことのない者だ。怪我人がいるという。何人かはわからない。」
 ナダイは水を汲むと少し思案した。
「ツーリも呼んでくれ。」
「わかった。」
 そう告げるとエイジアは家を飛び出した。
 走った。走りながら、エイジアは胸がきゅうっと絞られる想いに覆われていた。
(来た。)
(だが・・何が?)
 老の庵は走ればすぐだ。小さな村だ。
「老!老!訪問者です!ナダイからの知らせです。」
 小さな庵の主は、暗闇の中から目をしばたたかせて現れた。
「なんと?この夜更けに、しかも時化の中、・・訪問者などと。」
 だが、老いた導者は何かを感じたのか、すぐに声を低くして指図した。
「おまえはそのまま村の主だった者を集めよ。わしは一足先にナダイの元へゆく。」
 エイジアはうなずいてさらに走った。
 ツーリを起こし、壮年の者たちを起こして回った。
「いつもと違う?ナダイが?」
 ツーリの言葉にうなずきながら、エイジアは足を速めた。
 男たちが砂丘からその光景を見下ろした時にはすでにナダイと老がその船の主たちと向き合っていた。
 彼らはナダイの水を受け取ると船へと姿を消した。ひとり残った年輩の男が、ナダイと老とともにこちらへと歩み出した。
 村の男たちは顔を見合わせると、ツーリが代表となって彼らの元へと砂丘を滑って行った。
「老。」
 老はうなずくと、低く落ち着いた声で言った。
「彼らは今、術がない。村へ案内する。まずはこちらが我らとともにまいる。」
 男は静かな笑みを浮かべると、手を差し出した。
 ツーリは彼の手を取った。
「トーダ・ムネトウと言います。このランバーの操縦者です。」
「ランバー?」
 トーダは振り返って『船』を指した。
「この船はこの時化で打ち上げられたのか?いったいどこから来たのだ?」
「海から来たのではない。空からだ。」
「空?」
 老はうなずいてツーリに告げた。
「中に3人いる。ひとりが怪我をしている。村へ運んでくれ。」
「3人?この大きな船に3人?」 
 老とナダイのふたりはトーダを案内した。
 村の男たちがランバーという船へと向かうのを見送って、エイジアはトーダと名乗る男をともなう老とナダイの後ろに従った。
 歩いていた男がふと、後ろの気配に気づいて振り返った。
 一瞬エイジアの顔を見つめると、老に聞いた。
「彼は?」
「エイジアと申す。」
 老はそれしか言わなかった。
 トーダはもう一度振り返ったが、老が歩みを緩めないので歩き出した。
 ナダイが一瞬心配そうな瞳をして振り返った。が、何も言わずにみなとともに黙々と村へと向かった。

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境人
 村の真ん中にはひとつ大きめの棟があった。村の者が寄り集まって何かするときのもので、そこに住む者はいない。トーダはそこへ案内された。
 夜更けと夜明けの境目であったが、村の女が火を焚いて待っていた。
 トーダはそこで白くて少し泡のはじける飲み物をふるまわれた。この海岸に生え、風を防ぐ役割もしているトーラの実からとれる酒だった。
「じきにみなさんもみえるでしょう。もう少しわけを話してくださらんか?」
 老の言葉にトーダはうなずくと、訥々と語り出した。
「みなさんはランバーを見たことはないようだ。内陸へと旅したことは?」
 そこにいた者はみな首を振った。
「若い者の中にはいるが、もどっては来なかった。ここは小さな村じゃが、暮らしてはゆける。村に伝わる言葉にこういうものがある。『果てなき欲の果てには果てなき終わり
が待つ。始まりの村よりい出て暮らすな』と。」
 トーダはしばしその言葉を味わっていた。小さく息をもらし、うなずいた。
「なるほど。わきまえたいい言葉だ。我々はその果てから来たようなもの。」
 トーダはもう一度エイジアの顔を見て、問いかけた。
「きみは、生まれた時からここにいるのか?」
「・・いや・・。」
「そうか。道理でみなと顔が違う。」
「あたしの子だよ。」
 ナダイが言った。
「あなたの?」
「流れ着いた時からエイジアはあたしの子だ。」
「流れ着いた?いつ?」
「5つの夏を越えた」
 トーダはもう一度何か聞きたそうな素振りを見せたが、そこにランバーの乗組員たちが到着した。
 ツーリのがっしりとした背に背負われて来たのは怪我をしたと言われている乗組員だろう。それ以外に村の者よりも色の黒い男と、女のようにほっそりとして銀色の髪をしている白い肌の神経質そうな少年がいた。
 トーダはそのどちらでもなく、むしろエイジアに似た顔の造りをしていた。
「紹介します。デン・オコナーとサオ・ハ、そしてトナン・ラ。」
 黒い男、白い少年、そしてツーリに背負われた者の順にトーダは紹介した。
 ツーリの背から降ろされた者を見て、ささやき声が上がった。
「女か?」
「女だ。」
 エイジアよりは年上に見える若い女だった。
「いったいなぜここに?」
 老が問いを続けた。
「事故です。駆動装置の冷却部が壊れ、過熱して炎上する寸前だった。飲料水も全部使ってなんとか食い止め、不時着しました。その際トナンが怪我を。」
「どこへゆこうとしていたのだ?」
「惑星探査です。」
「惑星探査?」
「我々はこの星の地図を更新している。地形に変化がないか、隅々まで飛んで定期的に観測しています。」
「あのような大きな船で?」
 その問いにはトーダは答えなかった。
 老はトーダに向けていた目を白い少年の方に移すと言った。
「ところで・・そちらの人よ。あなたはもしや、境人では?」
「境人?」
 エイジアが小さく声を上げた。
「それはなんだ?」
 傍らのナダイに聞く。
「境をまたぐ者よ。知らなかったか?わたしも1/4、その血が入ってる。目に見えるものと見えないものの両方をまたいでいる者のことだ。」
「生っ粋の境人であろう?」
 老が言うのにサオ・ハは答えなかった。
「境人だとなにかまずいのか?」
 トーダが問うと、老は首を振った。
「風を読むため、ただ確かめたかったのだ。」
 サオ・ハが口を開いた。
 少女のような高い声だった。
「あなたが心配するようなことでない。どんな風でも乗ればいい。」
 その澄んだ声を老は身に響かせた。
「うむ。まずは休まれよ。寝ておらぬのじゃし。疲れたであろう。」

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シュト
 『訪問者』が訪れた夜が明けた。
 明け方に寝静まった村は静かだった。
 エイジアはまんじりともせず、村をぶらついた。
 気がつくとランバーの乗組員たちの休む棟の前に立っていた。
 サオ・ハが起きて、こちらを見ている。
 小さく会釈すると、向こうも返した。
 サオ・ハの座る階段の一段下にエイジアも座った。
「ひとつ、聞いてもいいか?」
 エイジアの問いにサオ・ハはうなずいた。
「トーダはエイジア人か?」
 サオ・ハはうなずいた。
「わたしもエイジア人らしいんだが、記憶がないんだ。エイジアの民は他にもいるのか?」
「首都にはあらゆる民がいる。」
「シュト?」
「この大陸の中心地だ。ずっと内陸にある。」
「そこから来たのか?」
 サオ・ハはうなずいてみせた。
「それってどういうところだ?」
 サオ・ハは遠くを見るようなまなざしを見せ、そしてつぶやくように言葉を漏らした。
「キラウア山は空高く聳える。あれはまさに天に届く山だ。」
「キラウア山?」
「休火山だ。首都はその裾に広がっている。」
「広がっている?広いのか?」
「あなたはここから遠くへ行ったことはない?」
 エイジアは少し困った顔をして答えた。
「・・たぶん、遠くから来たんだろうと思うんだが、覚えていないんだ。」
 サオ・ハはエイジアの顔を透かしてその向こうを見るような目をしてつぶやいた。
「随分北から流されてきたみたい。」
「えっ?」
「船だ。でも・・その船はどこから来たんだろうな。」
「何か分かるのか?」
「断片的にね。でも必要な時でないと見えないことは多い。」
 サオ・ハはエイジアが黙ったのを見て、初めてほんのりと笑みを浮かべてみせた。
「首都は広い。人も多い。でも、空から見ると一面の緑。」
「集落は見えないのか?」
 サオ・ハはうなずいた。
「まるで緑に埋もれるように建物は建てられている。」
 そこへデンが起きて来てふたりのそばに座った。
「あなたたちは地図を作る仕事をしているんだって?」
 エイジアの問いにデンもうなずいた。
「じゃ、世界中に行ったはずだ。エイジアの民はどうなったんだ?」
 デンはサオ・ハと顔を見合わせると、答えた。
「世界中というが、この大陸以外は小さな島ばかりで、あとは海だ。人はこの大陸に生きる者でほとんどだ。大昔に地殻変動があった。昔は5つも大陸があったそうだ。エイジアもその中の大陸や島々にいた民だ。」
「あなたはどこかの島でかろうじて生き延びた一族だったのかもしれないね。そして船で大陸を目指したのかもしれない。」
 サオ・ハがまた遠い目をしてこちらを見ていた。

 3人で話していると、ナダイたちがつる籠を手にやって来た。
 朝食の時間だった。
 トーダとトナンも起きて来た。
 老も手を上げてにこにこと笑みながらやって来た。
 ともに朝食を囲んだ。
 トーラの実のふかふかしたところを乾燥させて粉にして焼いたトラビと、魚を塩と少しひりっと辛いもので煮込んだ汁が並んだ。
「問題はきみらのランバーよの。」
 老が口火を切ると、トーダは首を振った。
「いや、それはそう問題ではない。」
「えっ?」
 老とエイジアは声を上げた。
「問題は・・。」
 そう言ってトナンをちらっと見た。
「トナンの怪我は半月もすればよくなる。」
 慰めるように老は言った。
 だが、トーダは黙って微かに笑ってみせるだけだった。
 トーダが笑った理由は、すぐに村の者にも知れた。
 トナンは少し変わっていた。
 必要最低限の返事しかしない。初めは傷が痛むせいだと思った。だが何日経っても、顔色がよくなってきても、トナンはむすっとした機嫌のわるい顔のままだった。
「なんであいつは船に乗っていたのかね?」
 ツーリはランバーのことを船と呼ぶ。
 首を傾げるツーリにナダイは笑い飛ばしながら言った。
「そりゃ必要だからだろ?少ない人数で航行するんだ。よけいな者は乗せないだろう。」

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ジン
 何日も特に何もする様子を見せないトーダに、エイジアは聞いた。
「帰る術はないのか?」
 トーダは笑うと答えた。
「帰ろうと思えば首都に連絡をとればすぐに迎えが来る。」
「ではなぜ?」
 柱にもたれていたトーダはエイジアに向き直ると声を潜めた。
「待っている。」
「何を?」
「トナンが鎮まるのを。」
「?トナンがどうかしたのか?」
「今度の事故はトナンが引き起こした。ランバーはたいていのことでは故障しない優秀な機器だ。だが、人間の引き起こす想定以上の電磁波には案外弱い。」
「なんだそれ?」
「きみも感じるだろう?トナンのそばによるとチリチリと痛くないか?」
 エイジアは棟の端で外の緑をただずっと眺めているトナンをそっと見やった。
 エイジアはトーダの横に座り直した。
「それはなんだ?」
「さあ。奥深いところにある何かだ。怒り、かもしれないし、憎しみ、かもしれないし。」
「それはずっとなのか?」
「前から感じてはいたが、事故直前にピークが来た。」
 そう言ってからトーダはエイジアの横顔をじっと見つめた。
「エトーという言葉に聞き覚えはないか?」
「エトー?」
 エイジアは首を振った。
「そうか。ならいい。」

 エイジアが井戸で水を汲んでいると、そばに立つ者がいた。
 トナンだった。
 エイジアは黙って水をトナンに差し出した。
 トナンはそれを受け取って飲み干した。
 何か言うでもない。
 だがじっとエイジアの瞳を見つめた。
 行こうとしてエイジアは声をかけた。
「ランバーは好きか?」
 トナンは振り返った。
 もう一度聞いた。
「ランバーは好きか?」
 黙っていたトナンはうなずいた。
「じゃ、また乗りたいだろ?」
 黙った。
 もう一度水を汲んでトナンに差し出した。
「乗りたくない。」
「どうして?」
「あたしはランバーを壊してしまう。」
 エイジアは驚いた。トナンは知っていたのか。
「でも、乗組員なんだろう?トーダは待ってる。トナンが鎮まるのを。」
「あたしはトーダは気に入らない。だから切れた。」
 さらに驚いた。
 トナンはいつになく饒舌だった。
「何が気に入らないんだ?」
「あいつのもっともらしさ。」
 わからない。
「いったいどこが?」
「あいつは正しい。だけど、それは《ジン》に触れるものじゃない。」
 思わずそう言ってしまってトナンはハッと微かに顔色を変え、黙った。
「ジン?なんだそれは?」
「何でもない。」
 そう言ってさらに不機嫌な顔になって足早にトナンは去っていった。
(・・・・。)
 エイジアは不可解な気持ちを抱えた。
(彼らは何かを隠してる。)

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ランバー
 その日の午後遅く、エイジアは砂丘を下った。
 そのままになっているランバーは、少しずつ砂に埋もれていた。
 何か引っ掛かるものを胸の奥に抱えてしまったエイジアは、なんだかじっとしていられなくなってここに来てしまった。
(ジン?なんだろう?それは・・。)
 だが、トナンの様子ではトーダにそれを聞くことははばかられた。
 ランバーに何か手がかりはないだろうかと思ったのだ。
 入り口に砂が積もって開きにくくなっていた。
 だが、試しに何度か体当たりをしてみると、思いがけず開いた。
 真っ暗な船内に入ろうとすると、ぼうっと明るくなる。
 驚いて外へ飛び出した。
 もう一度おそるおそる中へ足を踏み入れる。と、また灯りがつく。
 思い切って入ってみた。
 両側にいくつか扉のある細長い通路が続いて、突き当たりまで来た。
 そこの扉の突き出た部分に触れた。
 するとそれは音もなく開いた。
 どうやらそこは操縦室らしかった。けっこう広い空間で平べったい窓が右から左までぐるっと取り巻いている。
 エイジアは操縦室の中をぐるっと回ってみた。
 真ん中に台のようなものがあり、透き通った丸いものがそれを覆っている。
 覗き込もうとそれに触れた。するとその透き通った丸いものの中心に、映像が現れ始めた。
 海の上を飛び、深い森の上を飛ぶ光景だった。思わずみとれていると、その深い森の向こうに神々しいほどの何かが現れて来た。
「あっ。」
 それは見る見るうちに全景を現わした。
 山肌の半分を白くした、そこだけ巨大に聳え立つ山だと分かった。
(キラウア山。)
 と、突然ウーンと低い音を立てて映像は途切れた。
 映像だけでなく、ぼうっと灯っていた灯りも消えた。
 窓が外の光を入れていたのでかろうじて船内の様子は見えた。
 だが、戻ろうとして、扉が開かないことに気づいた。
 しばらく押したり引いたり、叩いたり、体当たりしたりしてみたが、びくともしなかった。
 黙ってその場に立ち尽くした。
 ナダイがいつも言っている言葉を思い出した。
(なるようにしかならないときは力を抜くんだ。)
 ひとつだけ息を吐くと、振り返った。
 操縦室をもう一度、初めから根気よく見ていくことにした。
 うす明るい光を頼りに3つ並ぶ椅子の端のひとつに座ってみた。
 手探りで何か反応するものはないか探っていく。
 3つ目の椅子まで来て、その一番端の部分に手が触れたとき、再びウィーンという低い音がして、今度は操縦席の前がいろんな光で点滅し始めた。
 その中で点滅の速いところに手をかざした。
 すると、乗組員の声がして思わずエイジアは驚いて立ち上がった。
 実際にここにいるのではないことにようやく気づくと、もう一度座ってその声に耳を澄ませた。
 何か言い争っているようだった。

「そうじゃない!トーダは真面目くさったしたり顔でまるで自分が正しいようなすまし顔だ。それは一番ジンの嫌うものだ!だから見つからないんだ!」
「よせ。トナンは激しすぎる。それもジンからは遠いものだ。」
 デンの声だ。
「だから言ってる。時が来ないとそれは出会えない。あせってはだめだ。」
 サオ・ハの冷静な澄んだ声もした。
(ジン・・彼らはそれを探しているんだ・・。だが、なんだ?それは?)
 その後の会話は雑音が入って、ピーッという高い音とともにそれは切れた。再び静寂が訪れた。
 しばらく椅子に座ったままでいたエイジアは、ふと我に返った。
(・・ここから出るにはどうしたらいいんだ?)
 いつの間にか陽が暮れかけていた。
 外の明るさが薄れればここは闇に沈む。
 ここにエイジアがいることを知る者はいない。
 今度はさっきよりも盲滅法手当たり次第に触るものを叩いていった。
 なんの反応もない。
 少し、肌が粟立ってきた。
 もう一度扉を叩くが同じこと。
 さっき光景を映した丸い球体にすがった。
(なんでもいい。なにか見せてくれ。・・見せてくれなくてもいい。なにか反応してくれ。)
 だが、沈黙に支配されたまま最後の陽の光は落ちて、深い闇にエイジアは抱かれた。
 自分の鼻の先すらも見えない。
 為す術を失ったエイジアは、球体の台にもたれて座り込んだ。
 再び力を抜いて、ただ闇に融ける。
 時が消えた。
 エイジアの思考は停止した。
 融けるがまま、ただそこにあるがまま、裸になって在った。
 浮かぶのはこの村に来てからの映像。
 まるでさっきの球体を見ているようだった。
 深い闇はエイジアの立つところをさらに深く掘り下げていった。
 吸い込まれるようにその淵へと落ちていった。

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エトー
(ここはもうだめだ。エトーと船へ急げ!)
(父さんは!)
(大事なものがまだ神居にある。すぐに追いつく。急げ!)

 静かで暗い。
 
(誰もいないのか?)

 水音がする。
 気がつくと頬を水に濡らしていた。
 頬だけではなかった。半身は水の中だ。
 板切れの上にかろうじて乗っている。

(父さん・・。)

 エトー?エトーと言ったか?
 父さんは何を守ろうとしたのだろう?
 
 微かな音がした。
 その音に気づいてエイジアの意識は深いところから甦ってきた。
 うっすらと目を開くと、微かな光が見えた。
 振り返ると球体がぼうっと薄く光っている。

 音もなく扉が開いた。
 エイジアはうながされるようにその扉から細い通路を辿って外へと出ることが出来た。
 エイジアが通るところに灯りがともり、ランバーの外へ出るとそれらは奇麗に消えた。
 外で立ち尽くした。
 まるでランバーは生きているようだった。
 星を辿って村にもどると、ナダイが声を上げた。
「どこに行ってたんだ!」
 今まで一度も発しなかった言葉だった。それによってナダイの心配がわかった。
 ナダイは自分の動揺に気づき、いつもの笑顔にもどった。
「まあ、いい。帰ってきたんだ。夜も更けた。腹はすいていないか?」
 エイジアは黙ってナダイのふるまうトラビと、甘い果物を口にした。
 ナダイが言った。
「彼らは明日、シュトへと帰るそうだ。」
「えっ?」
 エイジアは顔を上げた。
「ランバーは?」
「迎えが来るそうだ。」

 翌朝、エイジアはトーダの元へ急いだ。
「帰るって?」
「ああ。もう待てないそうだ。迎えがくる。」
「トナンは?」
「まだ鎮まってはいないが、しかたがない。」
「一緒に?」
 トーダはうなずいた。
「ランバーは?」
「置いていく。」
 エイジアは少し黙って、それから聞いた。
「エトーってなんのことだ?」
 トーダは片眉を微妙に上げたが、首を振った。
「心当たりがないなら話すことはない。」
 エイジアは言葉を探しながら、やっと口にした。
「昨日、覚えていない記憶の断片が甦ったんだ。その中にエトーという名前があった。」
 トーダは今度は両眉を上げた。
「聞き覚えがあるのか?」
 話していいものか迷いながら、口をついて出た。
「エトーと逃げろと言われた。父に。」

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船出
 トーダは瞳を見開いて、棟の段を降りた。
 エイジアの肩に手を置いて言った。
「我々と来ないか?」
 エイジアはとっさに身を引いた。
 トーダは笑顔を浮かべた。
「無理もない。理由も分からず知らぬところにゆくのは勇気がいる。」
 段に座ると、エイジアにも座るように勧めた。
 エイジアはトーダの横に座った。
「我々は地図を作っていると言った。それも事実だ。だが、もうひとつ大事な役割がある。」
 トーダはシュトに帰る日の朝になってそれを明かした。
「この大陸の首都は素晴らしいところだ。なにもかもが進んでいる。だが、ひとつだけ足りないものがある。」
「それが『ジン』?」
 トーダは驚いてエイジアの顔を見た。
「なぜ知っている?」
「トナンに聞いた。」
 トーダはそうか、とうなずくと続けた。
「きみも知っているかもしれないが、エイジアの民は世界に散った。その中でも古い民がいた。そして、その民に伝わるのがその『ジン』だ。」
「『ジン』って何?」
「今シュトのすべてはひとの思考によって動く機器によって暮らしは成り立っている。そう、ランバーもそういうものだ。」
 エイジアはうなずいた。
「だが、その動力源ともいえる人の思考の中に、『ジン』がないと・・。」
 トーダは少し言葉を切った。
「冷たく、危険な働きをする。」
 トーダは遠い目をした。
「昔はあったのだ。それらの機器を作り出した時、それはあった。当然のように。だからそういう機器も生まれた。この大陸が生まれて千年経った頃だ。絶頂期だった。だがそれから千年経った今、それは薄れかけ、我々はそれを必要としている。」
 再びエイジアの顔を見て少し笑いかけた。
「いにしえからのそれを探し求めている。それはこの惑星が五大陸の時代から細々と伝わり、その守り手の最後の一族がエトーというらしい。だから、この星の隅々にまで渡って探し続けている。もし、きみがそのエトーとつながりのある者ならば、ぜひ力を貸してほしい。」
「だが、なぜそれを隠していたんだ?」
 トーダはひとつ息を吐いて密やかに告げた。
「それを狙う者もいる。」
「狙う?」
「『ジン』に欲を持って触れようとするなら、それは内なるサイタンを呼ぶ。純朴な心でもって接することでそれは本来の宝となる。」
「サイタン?」
 トーダが目を上げて見た方をエイジアは振り返った。
 ナダイが立っていた。
「やはりそうか。」
 ナダイはそう言ってトーダのそばに寄り、エイジアを見て言った。
「潮が来た。おまえの潮だ。」
 エイジアはナダイ・アの顔を見返した。
「言ったろう。これがその潮だ。」
「ナダイにはわかるのか?」
 エイジアはきいた。
 ナダイはうなずくとこうも言った。
「ああ。それが大きくうねる潮だということもね。」
 だが、もうナダイの瞳は後戻りしてはいなかった。
「あたしにはそれがなんだかわからない。だが、おまえの潮には違いない。」
「エトーという名しかわからない。後は何も知らない。なんの記憶もないんだ。なんの役に立つ?」
「エトーというのを思い出したんだろう?ではまた何か思い出すだろう。」
 トーダもうなずく。
 その後ろにいつの間にかトナンとデンも立っていた。
「エトーなのか?」
「いや。エトーと逃げろと言われた、という。エトーに近い者だ。だが、今までにこんなに近いものは何も見つけられなかった。初めての収穫だ。ここに漂着してよかったんだ。トナン、おまえの爆発も意味があったな。」
「出会いの時が来たんだな。」
 サオ・ハの声がした。
「あと少しで迎えが来る。仕度しておいてくれ。」
 エイジアの返事を聞かずに、それだけ言ってトーダは立ち上がった。
 エイジアとナダイは黙ったまま家へともどった。
 ナダイは黙々とエイジアの荷造りをした。
「わたしは行くべきか?まだいったいなんのためにゆくのかもよくわからないっていうのに。」
 エイジアが投げかける言葉に、ナダイは手を止めて振り返った。
 少し黙ったままでいたが、つぶやくようにエイジアに聞いた。
「どうして思い出したんだ。急に。エトーだの。」
 エイジアは少し言い淀んでから告げた。
「ランバーにもぐりこんで閉じ込められたんだ。闇の中で力を抜いていたら気を失ってその合い間に切れ切れに感覚を思い出した。たぶん経験したであろうことを。気がついたら映像の浮かぶ球体に薄明かりが灯っていて、扉が開いた。ランバーは生き物のようだった。」
「エイジア。」
「・・。」
「おまえのゆくところは天のようなところか、地獄のようなところかはわからない。その両方かもしれない。」
 うなずく。
「だが、これだけは覚えておいてくれ。おまえの生には意味がある。」
「・・。」
「その意味を生きな。」
「?」
「おまえが船なら、船は陸にいちゃ行けない。わかるか?」
 エイジアはただ黙ってうなずいた。そして、ナダイを思い切り抱き締めた。
 ナダイは笑って背中を思いきり叩き、うながした。
「さあ。行きな。」
 いつもの、からっとした満面の笑みで、ナダイはエイジアの背中を押した。

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首都
 昼にもならぬうちに、それはやってきた。
 ランバーの十分の一くらいの大きさの飛行艇が2機、村の真ん中に降りて来た。
 煙のように静かだった。まるで雲が舞い降りたようだった。
 子供達はもの珍しく、歓声を上げて群がった。
 やはり音もなく開いた入り口から、人が降りて来た。
「エルナハン。」
「トーダ。」
「彼か?」
「そうだ。」
 エルナハンと呼ばれた男はエイジアを見た。
 エイジアが差し出された手を握り返すと、エルナハンは笑った。
「ランバーは後で調整班が来てチューニングする。たぶん持って帰れるだろう。一足先に帰るぞ。トナンはそっちだ。ブロック艇でゆっくり来い。ではさっそくゆくぞ。」
 デンやサオ・ハが乗り込み、トナンは別機に乗り、トーダも老と握手をして乗り込んだ。
 エイジアはもう一度ナダイを振り返り、ツーリの顔を見、老や村の人々の顔を見回した。子供達は意味が分からず笑っている。
 ふっと風のような笑みを浮かべると、手を振ってエイジアは乗り込んだ。
 ツーリの叫ぶ声が聞こえたような気がした。
(急だったから。あまり別れをちゃんと言えなかった・・。ありがとうみんな。今まで。)
 来た時と同じように静かに離陸した。
 だが、みるみる高度を上げ、あっという間に村は点のようになった。
 あとは水平飛行だ。
 だが、その速さといったらなかった。
 もう1機とみるみる差が開いた。
「あの船とこんなに離れていいのか?」
 トーダに聞くと、トーダは笑った。
「あれはブロック艇と言って、トナンのような者の影響を受けない装置を作動すると機能が限られてしまって速度が遅い。だが行き先は同じ首都だ。」
(シュト・・。)
 エイジアはランバーで見たキラウア山を思い出していた。

 驚くべき速さでどこまでも広がる緑の大地の上を滑ってゆくと、かなたにそれは見えてきた。
「キラウア山?」
 エイジアの感嘆に答えたのはサオ・ハだった。
「そう。もうここは首都だよ。」
「えっ?」
 眼下には緑の木々しか見えない。
「ほんとうに建物は見えないな。」
「半地下を利用したり、屋根の上を緑で覆ったりしてる。ほら、いよいよ着いた。」
 エイジアは目を丸くした。
 キラウア山の麓の、何もないかのように見えるところで唐突に飛行艇は止まり、その下の緑がいきなり割れて格納庫のようなものが見えて来た。ゆっくりと降下してゆく。
 頭上の屋根が静かに閉じ、停止した飛行艇の出口が開いてエイジアたちは降り立った。
「議長。」
 トーダがまず挨拶したのが、出迎えた銀髪の初老の女性だった。
「彼が?」
「はい。今のところの唯一の手がかりです。」
 女性は笑みを浮かべて手を差し出した。
 エイジアはその手を取って微笑み返した。
「何も覚えていないのです。お役に立つのかどうか。」
「かまわないのよ。役に立つ、立たないなど些末なこと。ようこそ、首都へ。わたしはユーニス。」
「流れ着いた村でエイジアと名付けられ、呼ばれていました。」
 ユーニスはうなずいた。
 エルナハンがユーニスに近づき、キスをした。
 一同歩き出して、エイジアは自然とデンと並んだ。
 エイジアはデンにささやいた。
「エルナハンとユーニスって?」
「パートナーだ。」
「夫婦ということ?」
「そう。」
「エルナハンはユーニスの息子みたいだけど。」
「パートナーになるのに年もなにも、関係ないな。エルナハンは年よりも十分成熟してるし、ユーニスは少女のようなところがある。見た目では測れない。彼らは最高のパートナーだ。」

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白い部屋
 格納庫を出て真直ぐの突き当たりは、明るい透き通った壁だった。
 そこの前まで来ると自然にそれは開いて、天井のない自然光の取り入れられた美しい吹き抜けが目前に広がった。地下深くまで蟻の巣のように層になって、多くの人々が行き交い、何かしているのが見える。目を上げれば緑に囲まれた青い空がぽっかりと見える。
 一同は吹き抜けのテラスのようなところに立った。
 するとそれは何の振動もなく高速で降下し始めた。
 止まったところで吹き抜けを取り巻く回廊を歩き、ひとつの部屋へと入った。
 真っ白い壁だけの部屋で、ユーニスは一同に座るよう勧めた。
 人々が座ると、それぞれのそばに飲み物の乗った台が滑るようにやってきて寄り添った。
 聞こえるか聞こえないかぐらいの美しい旋律と、そこはかとない気持ちのいい香りも漂ってくる。
 ユーニスはその味わい深い笑みに瞳をゆるませて、エイジアの顔をじっと覗き込んだ。
 なにも言わなくても、くつろがせる人だった。
「何をききたい?」
 エイジアは座り心地のいいソファーに深く座り直すと、まずは自分の大きな疑問を口にした。
「『ジン』のこと。それがなんなのかわたしにはまだよくわからない。トーダはそれを狙う者がいるといいました。サイタンを呼ぶと。それもよくわからない。エトーのことも。」
 ユーニスは深くうなずいた。
 後ろの壁に手を掲げた。
 するとその壁面にひとつの機器の映像が現れた。
 みなのそばに飲み物を運んできたように、それは食べ物を運ぶものらしい。
「これがジンがある働き。」
 それは人に寄り添うように近づく。人と一体となっているようだった。
「これがジンを失った働き。」
 同じように運んだ。だが、それは微妙にあさっての方へずれ、機械的で、冷たかった。
「これはまだいい方。大昔ならこれで喜んだもの。でも、機器が精妙になるにつれ、暴走するとやっかいさも増した。巧妙な死亡事故すら起きることがあるのです。」
「・・『ジン』ってなんですか?」
 ユーニスはもう一度うなずいて、ゆっくり語った。
「これらの機器は人の思考を受け取って動くもの。この動きは人の鏡。つまり、『ジン』とは人の心の繊細で、慈愛深い部分のことをいうのです。」
「人の心?」
「そしてそれは実は繊細でありながらパワフルな部分です。そのパワフルさのみを欲するならばサイタンを呼ぶ。」
「サイタンって?」
「サイタンとは慈愛とは対極の心。剣のような心。支配したいという心。ジンは裏返るとサイタンの可能性もはらむ。」
「そんな危ないものを探しているのですか?」
「そうではないよ。」
 エルナハンが笑った。
「エトーに伝わるのは、そのジンをジンたらしめるものだ。智慧といってもいい。元々ここにジンはある。だが、ジンは見い出されなければその働きは眠ってしまう。」
「エトーの智慧を持ってすればジンがジンとなるなら、狙う者がそれを生かせばそれもジンとなるのでは?」
 トーダが屈託のある顔を見せた。
「さあ、やっかいなのはそこだ。欲を持ってすれば、エトーの智慧を持ってして同じことをしてもサイタンとなる可能性を含む。しかも強力なね。ほんとうは、そこに気づくための智慧なんだが。」
「ややこしいんですね。やっぱりよくわからないな。」
 サオ・ハが含み笑いをしていた。
 エイジアはさらに聞いた。
「エトーはどこかにいると?それはひとり?それともたくさんいるんですか?」
「それを守っているのはごく限られた者だろう。」
 エイジアは思い出した。
(父さんは何か大事なものが神居にあると言っていた。もしかして・・。)
「あなたのお父さんが取りにもどったものは、それではないようだ。」
 サオ・ハがこちらを見ていた。
 エイジアは驚いて声を上げた。
「なぜそれを?」
「あなたが許すなら、この画像解析機で映像を結んでもいい。」
「そんなことができるのですか?」
 ユーニスはうなずいた。
「もちろん、あなたの許可がなければそんなことは出来ません。」
「では許可します。」
 ユーニスはサオ・ハの方を向いてうなずいた。
 サオ・ハはユーニスの後ろの壁面を指した。
 エイジアがランバーで見た光景がそこに現れた。

(ここはもうだめだ。エトーと船へ急げ!)
(父さんは!)
(大事なものがまだ神居にある。すぐに追いつく。急げ!)

 エイジアは驚いて立ち上がった。
「これは・・。」

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