神々の黄昏の時代
エイジアの民に伝わる《ジン》
それを探す首都の民

《ジン》とは?サイタンとは?

<< 待たれているもの main サイタンの僕 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています



- - -
事故
 議会が終了して、アテヒトはひとりでエレベーターを下り、首都の森を歩いた。
 森の湿り気のある空気は、アテヒトのほてった頭を冷やしてくれるようだった。
 少し暮れかけて夕映えが緑をやわらかく照らしていた。
 歩いて、歩いて、尽きるところまで歩いた。
 そこは崖になっていた。
 広く遥か地平まで見渡せる。
 続く緑の海の渚で、アテヒトは自分の中に言葉にならないものが落ち、それを迎えて何かが湧いて来ているのを感じていた。
(・・・。)
 それが何かを感じながら星が出てきた空を見上げた。
(・・じゃあ、わたしはジンを欲しているんだろうか?)
 その問いに胸がうずくのにアテヒトははっとした。
 まるでそこに小さな空洞があって、そこから風が呼ぶようだった。
 恋しくて恋しくてまるで恋うる存在を呼ぶように、それは呼ぶのだった。
(・・この足りないものを埋めるのがジン、だろうか。置き忘れたもののように。欠けている破片のように)
 具体的な足りなさの正体はわからないまま、ただ自分の中に呼ぶ声があることを聞いた。
「ここにいたのか。」
 デンの声に振り返った。
「ハワが、ひとりでこっちの方へ歩いてゆくアテヒトを見たと教えてくれた。さあ、帰ろう。陽も暮れる。」

 翌朝、呼び出し音で起こされた。
「どうしたんだ?こんな早く。」
 サオ・ハの珍しくうわずった声が音声伝達機から飛び込んで来た。
「事故だ!大きい。すごい騒ぎになってる。」
 アテヒトはあわてて施設が用意してくれた飛行艇でセンター棟に向かった。
「どうしたんだ?」
 サオ・ハを見つけて駆け寄り、問うた。
「エレベーターが一斉に誤作動した。急降下して怪我人がたくさん出ている。死者もいる。」
「デンは?」
「モリンが落ちて治療棟に運ばれたんで飛んでいった。」
「モリンはだいじょうぶなのか?」
「わからない。」
「どういうことなんだ?いったい?」
「起きたんだよ。」
「起きたって?」
「安全装置も効かなかった。誤作動を引き起こした人の不安や動揺は想像以上に大きかったんだ。」
 絶句するアテヒトに、サオ・ハは哀しい目をしてうなずいた。
 アルハラが側近に指図をしながらすごい形相で通りかかった。
 その時、声をかける者がいた。
「おまえがジンを入れないでいるからこうなった!責任を感じろ!」
 アルハラは立ち止まると、その者に近づいて胸ぐらをつかんだ。
「ジンなどとよけいなものを持ち込もうとするから人心が騒ぐのだ。文句があるならユーニスらに言え!」
 それを聞いた市民がふたりの周囲に集まって来た。
「おまえのようなその荒れた心が事故を引き起こしたんじゃないのか?」
「わたしが荒れるのは無責任な人間に腹を立てているからだ!」
「アルハラだけじゃない。ひとりふたりの心でこれだけの事故が起こるわけがない。人のせいにするそっちもどうなんだ?」
 別の人間が口をはさむ。
「何を!」
 新たな喧嘩が始まりそうな気配を見て、サオ・ハが手を挙げて制した。
「待ってください。こころを静かにしないとまた事故が起きます。火を注がないで。」
 それを聞いてみな仕方なく黙った。
 アルハラは大きく嘆息すると、白い会議室の方へと足早に歩いていった。
「死者はどのくらい?怪我人は?」
 アテヒトが問うと誰かが答えた。
「二、三十人が死んだ。怪我人は数え切れない。」
 アテヒトは思わず事故現場へと走り出した。

 エレベーターはすべて1階で停止していた。
 まだたくさんの人々が横たわり、介抱する人々が幾重にも取り囲み、人々はせわしなく行き交っていた。
 アテヒトは何をしたらいいのか分からなかったが、目についたひとのそばに駆け寄り、ひざまずき、顔を寄せて声をかけた。
「だいじょうぶですか?何かしてほしいことは?」
「・・・。」
「なんでも言ってください。なんでもいい。」
「みず・・を。」
「わかった!」
 水を探しに行こうとして立ち上がったアテヒトは肩をつかまれた。
「今は水を飲ませない方がいい。打ちどころが悪ければ容態が急変する。そばにいて手をとって話かけてやるんだ。すぐに治療棟へ運ぶ順番が来る。」
 ドラゴだった。
 アテヒトはうなずいて横たわるひとのそばに再びひざまずいた。
 ドラゴはアテヒトの瞳を見て、ふっと力を抜いて微かに笑ったように見えた。
「おまえはちっとも変わってない。」
「えっ?」
 それを境にドラゴの表情が変わった。
 垣根がなくなり、何かを守っていた柵が取り払われた。
 弱っている者のそばに惜しみなく気さくに寄り添い、アテヒトのようにとまどう者には的確な指示を与え、落ち着きを取り戻させた。
 驚いたことに、あの大男のバギも、ドラゴにつられるようにとても繊細に怪我人の処置に当たっていた。
 人々の間をぬってひとつひとつ丁寧に処置していくドラゴの動きは、それだけで見ている者を安心させた。
 ドラゴのほんとうの一面を見たように思ってアテヒトはつい目で追った。 
 そんなアテヒトの目の前をすっと通りかかって、ドラゴはアテヒトに目配せをくれた。
 アテヒトはハッとした。
 目の前のひとをなおざりにしてドラゴを見ていたのだ。
 ドラゴはまなざしだけでそれを伝えた。
 その、思わぬ瞳の色の深さに、アテヒトは言い知れぬ想いを抱いた。
(あの目をどこかで見たことがある・・。)
 頭を振払い、目の前のひとにだけ集中した。
「だいじょうぶ!もうすぐ運ばれて治療が受けられます。しっかり!」
 横たわる人に必死で声をかけながら、アテヒトの脳裏にはそのドラゴの瞳が焼き付いて離れなかった。

JUGEMテーマ:連載



Story comments(0) trackbacks(0)
スポンサーサイト


- - -
comment



この記事のトラックバックURL
http://planet-jin.jugem.jp/trackback/30
trackback
S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
Selected Entries
Categories
Profile
Archives
Links
Mobile
qrcode
Sponsored Links