神々の黄昏の時代
エイジアの民に伝わる《ジン》
それを探す首都の民

《ジン》とは?サイタンとは?

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不安
 アテヒトはドラゴの部屋にいた。
 その日あったことを、ひとりでは消化し切れず、思わず扉をたたいていた。
「サイタン?」
「ああ。ドラゴが言うように、巧妙にサイタンは誰しもに潜んでいるんだね。だが、それをいったいどう見分ければいいんだ?」
「その、トナンが言った通りだ。他を犠牲にする、虐げる、とか、ひとつの正しさに凝り固まっていないかどうか。そのあたりだよ。正しさはくせものだ。いくらでもすり替えられる。正しさのためにひとは人を殺してきた。これは何千年も変わらない。」
「正しさってなんだ?わからなくなってきたよ。」
 腕を組んで窓にもたれて立っていたドラゴは、アテヒトが身を預けているソファーに並んで腰を降ろした。
「こう思えばどうだ?あたたかく、希望にあふれてくるものを目指す“方向”が大事だって。」
「・・。」
「だが、それは方向であって、ただそうだと一言でいえるものでもない。その道の途中は内に嵐を呼ぶ厳しいこともあるかもしれない。こう、と決めるな。だが、これはひとつ言えるかもしれない。その厳しさというのは人に向けるというよりは、自分に向けるものだろうな。」
「なんだかあやふやだな。」
「そうだ。いいことを言う。雲を掴むようなところに案外ほんとのことはある。」
 だが、アテヒトはその曖昧さをドラゴが力強く抱えることができるところに、落ち着きを取り戻して来た。
「なんだか、少し落ち着いたよ。不思議だ。なんにも解決してないけどね。」

 エトーを見つけだすことが出来ぬまま、議会は召集され、懸念していたことがまさに実現しようとしていた。
 アルハラは首都の民の不安を代表して、変化への抵抗を主張した。
 ユーニスは議長である立場上、自身の意見は最後まで控えなければならなかった。代わりにエルナハンとトーダが、エトーの智慧を首都に迎えることを主張した。
 アルハラは強い調子で詰問した。
「きみらはエトーの智慧、エトーの智慧、というが、それがどういったものかわかっているのか?それを入れることによって起こることにまで思いを巡らせているとはどうも思えない。首都には今大きな争いはない。何を変える必要がある?」
 トーダが応えた。
「今、争いがないように見えるのは表面のうわずみの部分だ。もしも、その底にある人の心が動かなくなり、あたたかみや躍動を失っていったとしたら、激しい争いという嵐ではなくとも、無関心という砂漠に生きることになる。果たしてわたしたちはそこで生きられるだろうか?それは、つまり、ひとのいのちへの驚きもなくなり、やがては平気でひとを死にいたらしめることさえ日常茶飯事になるだろう。人は無関心によっても人を殺せる。首都の機器がひとの心によって動いていることを思えば、そのことの重大さはわかるはずだ。」
 アルハラの側近のケーニヒがさらに続けた。
「だがこういう記録もある。二千年の昔、ジンが播かれた時、想像もつかぬ事態に天地は静まり返ったと。いったい何が起きるかわからないのだ。今のままなら、少なくとも今の生活は続けられる。今すぐ滅亡するという事態ではない。我々はこれ以上を望まない。」
 エルナハンが口を開いた。
「その後の記録も見よ。そのおかげで首都の文明は花開いたのだ。そうではないか?神々の黄昏れから目をそらしているうちに、日は暮れてしまうぞ。」
 双方の意見は続いた。
 どこまでも平行線で結論は出そうになかった。
 そこで、ずっと黙っていたサオ・ハが意見を言うことを求めた。
 ユーニスが指名した。
「わたしは、ここにあるこの不安がどこから来ているのかを見るべきだと思います。アルハラたちの変化への不安、トーダたちのこれも変化への不安。それらは同じものではないですか?」
 違う意見だと互いに思っていた者同志が虚をつかれて静まり返った。
 ユーニスが問い質した。
「それは?もう少し続けて。」
「わたしたちは生きたいのです。生きるために生まれてきたのです。」
「そうだ。だからこそそうでないものに不安を感じるのだ。」
 アルハラがうなずいた。
「ですが、それはいつか必ず断ち切られる。」
「・・。」
「それがある限り、この不安はぬぐえません。」
 大人たちは絶句していた。
 サオ・ハはこの場で最年少であったが、かえって大人が普段目を逸らしているものをまっすぐに見る目があった。
 傍聴席にいたアテヒトは、サオ・ハが持つその目がどこから来るのかを、この時に感じた。
 サオ・ハは人と違うことで、人よりもなぜ?なぜ?と思い続けて来た。だからこそ、その孤独の底に沈む切ないものに触れ続けていることが出来るのだ。
 そして、それは不思議にジンに通じるものだと、アテヒトは直感した。

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