神々の黄昏の時代
エイジアの民に伝わる《ジン》
それを探す首都の民

《ジン》とは?サイタンとは?

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サイタン
 会議室にもどると、トーダが落ち着きなく歩き回っていた。
「少し急がないと。アルハラたちは議会を否決の方へと導くために動いているそうだ。」
「というと?」
「つまり、否決になればエトーを見つけても首都ではジンを入れないということになる。我々の動きが無駄になるどころか、首都の行く末が大いに案じられる。」
「アルハラともう一度話し合ってみるのはどうですか?」
 アテヒトは素朴に提案した。
 ユーニスはそっと答えた。
「人々の底にある恐怖が先導し始めている。理屈では解決しない。」
「そこを癒すのもジンだ。急ごう。」
「どうします?」
 デンが聞く。
 トーダはしばらく頭を抱え込んだが、口火を切った。
「これは最後の手段にとっておいたのだが・・。」
 そう言ってアテヒトを見た。
「きみの記憶を探る許可をくれないか?」
 アテヒトは瞳を大きく開いた。
「どういうことですか?」
「この間サオ・ハが解析機にかけたろう。あれの少し深めのものを試してみたい。普通、そこまでのことはやらないんだが。」
 エルナハンがトーダをたしなめた。
「待て。それは。」
「わかっている。だが、他に手立てがあるか?」
 ユーニスが溜め息をついた。しばらくの間をおいてトーダに言った。
「アテヒトに説明なさい。」
 トーダはアテヒトの方に向き直った。
「よく、聞いてくれ。きみの記憶は理由があって失われているはずだ。だから、その扉を開こうとするからには何が起こるか分からない、というのが本当のところだ。万が一のことがないとも限らない。」
「万が一?」
 聞き返したアテヒトにサオ・ハが少し掠れた声で告げた。
「あなたがあなたとして戻って来れないかもしれないってことです。」
 アテヒトは言葉を飲み込んだ。
 しばらく部屋には沈黙がたなびいた。
「ほんとうに必要なのか?まだ他に方法があるんじゃないのか?」
 エルナハンがもう一度言った。
「探索は尽くした。時間がない。どんなヒントでもいい。前に進むものが欲しい。」
 トーダは絞り出すように言葉を吐いた。
 トーダはトーダなりに誠実に真剣であることは、アテヒトには分かった。
 うなずいた。
「わたしは何も持ってない。家族も。家も・・。記憶すらないんだから。たったのこのわたしでしかないんだ。でも、こんなわたしでも多くの必要とする人の役に立つんなら・・。」
 エダナントの笑顔を思い出しながら、アテヒトはそこで息を吸った。
「いいさ。やろう。」
 みな、沈黙した。
 その一言の重さを、みな、分かっていたのだ。
「やめろ!」
 その時、後ろからした声に、みな振り返った。
「トナン・・。」
 トナンはまっすぐトーダの元へ行って、その胸ぐらをつかんだ。
「今、ハッキリ分かった。あたしはあんたのこれに切れたんだ。」
「どうしたんだ、トナン。保養施設にいたんじゃなかったのか?」
「わたしが呼んだのです。」
 ユーニスが言った。
「アルハラが人を募っている。トナンにも働いてもらう。」
 トナンはトーダの胸ぐらを掴んでいた手を放した。そして言った。
「今のがサイタンだ。」
 トナンはしかし自分の怒りを抑えていた。ランバーの時のトナンとは違っていた。その証拠に低く、落ち着いた声を出した。チリチリとしたものは発していなかった。
「サイタン?」
 アテヒトが不審な声を上げた。
「今のどこがサイタンなんだ?トナン。」
「それがなんであれ、欲のために他を犠牲にした。ジンとは対極のものだ。」
「だけど、そのおかげでたくさんの人が救われるなら、いいじゃないか。」
「生け贄によって、何が救われる?ジンとはもっと大きなものだ。滅びるなら滅びよ。」
 ユーニスは立ち上がった。
「トナンの言う通りだ。わたしもサイタンとなろうとした。ここに謝る。」
 アテヒトは驚いて困惑した。
 ユーニスはアテヒトの肩に手を置いて続けた。
「誰からも圧迫を受けてはならない。たとえそれが善きことのように思えても。自分で圧迫と思わなくともだ。自分の深いところからの声の通りに従いなさい。この話は白紙だ。いいですね。」
 トーダは脱力したようにソファーに身を投げた。
 汗を拭ってひとことだけ発した。
「すまない。」
 サオ・ハがいたわるようにトーダの背に触れていた。

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