神々の黄昏の時代
エイジアの民に伝わる《ジン》
それを探す首都の民

《ジン》とは?サイタンとは?

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エダナント
 首都をもっと見てみたい。
 そのアテヒトの希望につきあったのはサオ・ハだった。
「自分で感じてみたいんだ。ジンが薄れるってどういうことか。」
 ユーニスは快く承知してくれた。
「ドラゴはどう?」
 サオ・ハは会議室や飛行場のあるセンター棟のエレベーターを下りながら、アテヒトに聞いた。
「ほんとによく知ってるよ。エトーは死にそうになって随分しゃべったらしい。だけど、しゃべったのがドラゴでよかったんだ。」
「そう?」
「あのひとは荒っぽくとっつきにくく見せてるけど、真ん中は頑固なくらい一本気だよ。」
「隠してることは?」
「きみのいう通り。ドラゴはまだ何か隠してる。それは感じる。だがまだ、それは時が来ていないんじゃないかな。」
 サオ・ハはうなずいた。
 一瞬のようにして1階に降りた。
 アテヒトは初めて首都の土を踏むこととなった。

 緑陰濃い大地だった。
 空を見上げた。重なり合う樹々のすきまから、木漏れ日が煌めいている。
 下に降りても建物らしきものはすぐには目に入らない。
「前に言ったように建物はうまく緑に埋もれてる。歩こう。」
 サオ・ハの歩幅に合わせて歩き出した。
「ここの人の暮らしが見たいな。」
 アテヒトがつぶやくと、サオ・ハはうなずいて言った。
「そうだね。案内するよ。」
 アテヒトはサオ・ハと並んで歩きながら、自分より年下であろうサオ・ハの細い横顔を見た。かねてから感じていたどこか引かぬその強さを思って問うた。
「サオ・ハは家族は?なぜジンを探すメンバーになったんだ?」
 サオ・ハはちらっとアテヒトに目をやったが、そのまま前を向いたまま歩みを緩めなかった。
「家族はいない。ユーニスに拾われた。ユーニスは生きる道を教えてくれた。」
「生きる道?」
「境人にも生きる道はある。」
「そりゃそうだろう。どころか、きみのような人こそ、必要、だろ?」
 サオ・ハはどこか哀し気な表情を浮かべたまま少し笑った。
「着いたよ。」
 大きな樹の前でサオ・ハは止まった。
 アテヒトはとまどってその樹を見上げた。
 サオ・ハが樹に触れて話し掛けると、驚いたことにその樹の幹が開いた。
 精巧に作られた、それは建造物だった。
 エレベーターのようなものに乗る。それは下り出した。
 着いたところは明るかった。地中に下りたと思っていたら目の前に現れたのは、眼下に緑が広がっている採光のいい窓が一面に取られたスペースだ。
「えっ!?」
「ここは崖状になっているところに作られているから、眺めはいいよ。」
 人が現れた。
「ワルラ。」
 男はうなずいた。
「紹介するよ。アテヒトだ。」
 ワルラは歓迎の笑みを浮かべ、中へとうながした。
 小さな女の子が子犬のように現れて、アテヒトたちにまとわりついた。
 少し大きめの部屋に入ると、今度は女性が現れて迎えた。
「ワルラのパートナー、ハワだ。この子はふたりの子アシュケ。そして、エダナント。」
 エダナントと言われた男の子は、黙ってこちらをただ見つめていた。
「よろしく。」
 アテヒトはワルラとハワと手を交わした。
「ユーニスの客人。首都は初めてだから首都の暮らしを見せてほしいんだ。」
「うちなんかでいいのかい?」
「ここがいいんだ。」
 アシュケがうれしそうにアテヒトに抱きついてくる。
 ハワがお茶を運び、部屋のカーテンを開いた。どこにあるのかそのスイッチを操作すると眼前にやはり広々とした緑が広がる。
「お昼を一緒にする?」
「ありがと。」
 サオ・ハは微笑んだ。
 アテヒトはアシュケに気に入られたようで、アシュケは満面の笑顔を浮かべたままアテヒトを離そうとしなかった。
 アシュケの天真爛漫さとうってかわって、部屋の家具のように固まっているエダナントがアテヒトは少し気になった。
「暮らしが見たいんなら、買い出しに行く?普段は配達で済ませるけど、それじゃつまらないでしょ?」
 ハワがアテヒトに笑いかけた。
 アテヒトとサオ・ハはうなずいて立ち上がった。
 アシュケが跳ねながらついてくる。
「エンタテイメント・ブロックに市場があるわ。」
「でも、普段は買い出しなんて行かない?」
「家事というのはいくらでも省略できる。そのためにあらゆる機器がサポートしてるわ。でもそれだと潤いがないから、楽しみとしてそれはあるのよ。」
 自家用小型飛行艇でその市場に飛んだ。
 ここだけぽっかりと空が開けた明るい空間に、出店がたくさん並んでいた。
 ハワは色とりどりの野菜の名前をアテヒトに教えながら、手早く買い物を済ませ、市場の広場に出た。
 アシュケが喜んで走り出した。
「元気な子だ。」
 アテヒトが笑いながらつぶやくと、ハワもうなずいた。
「エダナントはあまり外に出ないんですか?おとなしそうだ。」
 ハワは黙った。そしてそっと語った。 
「あの子は感情をあまり表現しない子なの。」
 アテヒトはサオ・ハの顔を見た。
 サオ・ハは微かにうなずいた。

 みんなで家にもどると、アシュケの笑い声が混じるにぎやかな昼食の仕度が始まった。アテヒトは楽しそうな家族の様子を眺めながら、そっと離れてエダナントのそばへと腰掛けた。
「やあ。」
「・・・。」
「楽しそうだ。いつもこんな食事なのかい?」
 エダナントは横顔を見せてアテヒトの問いには答えなかった。
 だが、アテヒトには分かった。答えないが、エダナントは聞いていないわけじゃない。
 そっと彼の肩に触れた。少しビクッとした反応があったが、それはすぐに緩んだ。
 アテヒトは彼の前にまわると、その瞳を覗き込んだ。
 そしてただ、笑いかけた。すると、エダナントはアテヒトの瞳の奥の奥の方を吸い寄せられるようにまっすぐに見つめて、そして、それからゆっくりと口元を緩ませた。
「じゃあ、あっちへ行こう。」
 そう言うアテヒトに手を取られて立ち上がった。
 ハワが手にした皿を持ったまま少し驚いた瞳をしてこちらを見ていた。
 ワルラが笑った。
「やあ。きみには心を許したようだね。」
 けげんな顔をするアテヒトに、サオ・ハは苦笑して言った。
「アテヒトは何をやったか自分で気づいてないよ。」

 ワルラの家を出て、サオ・ハは振り返った。
「エダナントはひとつのしるし。エダナントにはジンが必要なんだ。」
「でも、いい家族だった。どうしてなんの不足もないように見える家族の中でエダナントは閉ざされてるんだ?」
 サオ・ハはとても首都とは思えない森林を散策しながら、黙った。
 アテヒトはさらにつぶやいた。
「どんなに時代が進んでも、エダナントのような孤独が出て来るのは、それはぬぐえないことなのか?」
「違うよ。きっとぬぐえる。今より少しでも。そうじゃない?いつも、今より進むためにわたしたちはここにいるんだ。」
 アテヒトは立ち止まった。
 サオ・ハも立ち止まった。
 アテヒトはサオ・ハのまっすぐな澄んだ瞳を見た。
 その奥にある切ないものを見た。
 それが、人が見えぬものがまっすぐ見えてしまう境人の背負う切なさだと感じた。
 サオ・ハは続けた。
「ワルラやハワが悪いんじゃない。もちろんエダナントも誰も悪いわけじゃない。一緒。エダナントはしるしの役を請け負っていてくれてるだけ。わたしたちの代わりに。だからわたしたちはわたしたちのできることをしなくちゃならない。分担だ。そう言ってユーニスはわたしの分担を教えてくれたんだよ。」
 切なさゆえにサオ・ハは純粋にジンを探し出すことを使命にしている。
 アテヒトはサオ・ハの想いに胸が疼いてうなずいた。
「ちょっと待って。」
 急にサオ・ハが腕を耳に近付けた。
 手首に巻き付けた何かから音声がした。
「もどろう。動きがあったみたい。」

JUGEMテーマ:連載



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