神々の黄昏の時代
エイジアの民に伝わる《ジン》
それを探す首都の民

《ジン》とは?サイタンとは?

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神々の黄昏
 現れたのは白い髪の混じった初老の男だった。
 アルハラは一同がいるのを見て、一瞬躊躇する表情を見せたが、ユーニスが招き入れた。
「副議長。どうしました?至急とは?」
「その・・。」
「かまいません。ここで。」
「エトーを探しておられるというのは本当ですか?」
「漏れたか。だが早晩知れること。首都を憂れうなら当然為すことですから。」
「その、議長。あなたは何か思い違いをしておられる。」
「どういうことですか?」
「首都の何がお気に召さないのです。何も問題はない。エトーの智慧とは、ただ薔薇色のものではありません。均衡を崩すものです。そんな危険なものを探してどうするというのです?」
 ユーニスはアルハラの方に向き直ると、じっくりとした語り口になった。
「均衡はすでに崩れています。崩れたところでつかの間の安定があるだけ。このままいけば、人を殺すこともなんとも思わない人間が増えることすらあり得る。ジンが失われるということは、ひとのこころが閉じ、通わなくなるということなのですよ。」
「ならば議会にかけるべきです。エトーの智慧を必要とするか否かは、首都の市民が決めること。」
「それはエトーを見つけてからするつもりでした。で、なければ、議会で決まる頃には エトーがいないということにもなりかねない。」
「独断だ。それは議長の権限を逸脱している。」
「アルハラ。」
 ユーニスは立ち上がった。
「何を恐れているのです?」
「恐れているというのなら、議長の独走をこそ恐れます。それこそが、エトーが招く災いの印ではないですか?」
「座ってください。」
 ユーニスはアルハラをソファーに招いた。
 アルハラは落ち着き無くみなの顔を見回しながら、しぶしぶ座った。
「今が神々の黄昏の時代と、市民の間ではもう随分前からささやかれているのをあなたは耳にしましたか?」
「そんなたわいもないうわさ話など・・。」
「神々がなぜ神々と呼ばれ、別格視されると思いますか?」
「人間の手本となる偶像を作っておかなければ、弱い人間はたちまち身を滅ぼすからですよ。」
「神々というが、その神々に共通する唯一のものはなんだと思います?」
「・・共通?」
 アルハラはつぶやき、そして答えた。
「例えば・・完璧さ。」
 ユーニスは微笑みをたたえてはいたが、小さく首を振った。
「いいえ。変わり続ける、ということです。」
「えっ?」
 アルハラ以外からも声がもれた。
「変わらないのが神でしょう?」
 アルハラが不審げに声を上げた。
「ではこう言いましょう。進化しつづけるのが神々。いつも新しく、ひとときも同じではない。それをひとは手本としようとしました。」
「つまり、」
 アテヒトが口をはさんだ。
「神々が黄昏れるというのは、世界の進化が滞ってきたということですか?」
 ユーニスはうなずいた。
「一番分かりやすい例をあげましょう。“死”というのは昔から穢れとしてある意味嫌われ、遠ざけられてきた。それはなぜかというと、死というのはひとつの進化の終わりの姿であり、上昇するらせんの柱がそこから失われるということだからです。サオ・ハならわかるでしょう?」
 サオ・ハはうなずいた。
「いのちはそれで終わりではないけれど、死のそばによればわかる。そこには生きてるものとまったく違う空気の流れが現れる。流れていないし、ひろがりもない。」
「生きながらにも、死に近いこともあります。それは留まり続ける状態。」
「首都がそれだと?我々は今そうなのだとおっしゃるのですか?」
 アルハラが問うた。
 ユーニスは微笑むこともやめ、うなずきもしなかった。
「だが、それが平和だというのだとしたら?神々のまねなどしなくともよい。このままでいいのです。」
「アルハラ。」
「はい。」
「ことが起こってからでは遅いのです。大きな災いが起こる前に、動くのです。」
 アルハラの顔は納得していなかった。
 ユーニスは続けた。
「我々だけでことを進めようとしていたことは謝ります。慎重を要することだったので。ですがあなたのような考えはあなただけではないでしょう。時が至ったというなら、公にし、あなたのいうように議会にはかりましょう。」
 アルハラはようやくうなずいて、立ち上がった。
「では、そのように。」

 アルハラが立ち去って、アテヒトは思わずユーニスに尋ねた。
「ジンを恐れる人もいるのですか?もとめるものとばかり思っていた。」
「ジンはただ穏やかな平和なものというだけではない。変わるということには多かれ少なかれ力を必要とします。それが喜びや輝きも連れて来るのですが、超えなければいけないこともある。」
 エルナハンが告げた。
「急いだ方がいい。エトーを早く見つけることだ。」
 サオ・ハがアテヒトの方を向いて言った。
「アテヒトにはたらいてもらったらいい。」
「どういうことだ?」
 トーダが聞いた。
「ドラゴともっと近づいて、彼女が隠しているものに触れてください。」
「それは何?」
「わからない。だけど、それはアテヒトにしかできない。そんな気がする。」
 アテヒトは困った顔をしたが、デンが笑いながら背中を押した。
「おまえがいたからドラゴはここへ来たんだ。責任をとれ。」
 デンの無茶な理屈に少し笑ってうなずいた。
「わかった。っていうか何もわかってないけど、ドラゴと話してみる。」
 とは言ったものの、何を話していいのか、皆目見当がつかなかった。
 会議室を出てひとつため息をついた。

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