神々の黄昏の時代
エイジアの民に伝わる《ジン》
それを探す首都の民

《ジン》とは?サイタンとは?

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火種
 ドラゴとその仲間の熊のような男は、飛行艇に乗って首都に向かうことになった。
 トーダとデンは渋ったが、サオ・ハが勧めた。
「やつらはどこか信用がおけない。ほんとうに連れていくのか?あそこまで話してよかったのか?」
 サオ・ハは深くうなずいた。
「ドラゴはアテヒトを知っている。それだけじゃない。もっと知ってる。」
「サイタンを引き込んだかもしれないぞ。」
 デンが溜め息をつくと、トーダが口をはさんだ。
「待て。どう転んでもサイタンはつきまとうものなんだ。明日おまえがサイタンにならないとどうして言える?ここはサオ・ハの直感に賭けよう。」
 
 ユーニスとエルナハンがドラゴを迎えたのは、あの白い会議室だった。
「ようこそ。どうかあなたの火種がジンを灯しますよう。」
 ユーニスが微笑んだ。
「なんの挨拶だい?」
「ジンを迎えるためのどんなことも歓迎します。」
 エルナハンがつけたした。
 みなが腰を降ろすと、トーダがドラゴに聞いた。
「エトーを知っているということだった。話してくれ。」
 ドラゴはどこか不敵な笑みを浮かべると、勿体ぶってみなの顔を見回した。
「だが、うかつに話していいもんでもないさ。そっちがまず話すべきだ。」
 サオ・ハがうなずいて口を開いた。
「わたしの宣をあなたは聞き入った。エトーの役割についてあなたは知っていますね?それを知る者は少ない。エトーのことをみなが知っていれば欲の餌食になり生き残れないからです。伝えることを使命とするエトーは逆に目立ってはならなかった。」
 トーダが続けた。
「地核変動が再び増えている。それこそがジンが失われていっている証拠。ジンがあることで世界のバランスは保たれて来たのです。大昔、ジンの均衡を大きく崩し、手に終えなくなって大きな変動に至った時、エトーの一族は再びジンの種を播くことが出来る時が来るまで隠れました。長い大地の変動が収まってようやくジンは播かれ、首都の文化は花開いたのです。だが、その栄えを背にしてエトーは隠れた。再び必要となるまで守り伝えるために。」
「今がその時です。」
 エルナハンがそう告げた。
「ジンが衰えたと?」
 ドラゴが口にした。
 ユーニスがうなずいた。
 しばらく沈黙が続いた。
 ふっとドラゴが笑った。
 アテヒトはいぶかしそうにドラゴの顔を見た。
「オレが知ってんのはね。・・エトーがこいつをかわいがってたってことさ。」
「やっぱりわたしを知ってるのか?」
「いいや。初めて会った。」
「・・。」
「おまえの話は聞いてた。おまえの顔も知ってる。エトーはお前の顔を自分で描いた絵を持っていた。一目でわかったよ。・・おまえがいたからエトーのことを話すためここへ来る気になった。」
「エトーは今どこに?」
 デンが聞く。
「ここにいないことはたしかだね。」
 ドラゴははぐらかすように笑った。
「エトーとはどこで知り合ったんだ?」
 トーダが問う。
「あの島さ。」
「えっ?」
「あの小さな島にやはりいたのか!?」
「もういないよ。」
「・・。」
「もう発った。」
「で、どこへ行ったんだ?」
「さあね。その大事なお役でも果たしにいったんじゃないのかい?」
「エトー自身もそれをしようと動いているのか?」
「だが、やはり自分の欲から狙う者もいると言っていた。それをくぐり抜け、ゆくべきところに辿り着かねばならないとね。」
 サオ・ハはその澄んだ瞳でドラゴをじっと見た。

 ドラゴと熊男のバギを、アテヒトと同じ施設にデンが送った。
 アテヒトはドラゴに聞いた。
「その・・エトーはどんな人?」
「おまえはエトーのことを何も覚えていないのか?何があった?」
「船で難破したらしいんだ。浜に流れ着いた。そこの村でよくしてもらった。だが、ずっと自分の名すら思い出せなかった。」
 ドラゴは前を向くとつぶやくように口にした。
「エトーは独り者だった。おまえと気が合って、おまえをかわいがっていたんだ。」
「木から落ちた時、助けてくれたのもエトーだろうか?」
 ドラゴは振り返った。
「ウノという人に教えてもらった。」
「その話はオレも聞いた。おまえはやんちゃで手のつけられない子どもだったそうだ。」
 バギは黙って話を聞いていた。無口な男だった。
「着いたぞ。」
 飛行艇は旋回した。

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